山方健士さん(JAXA有人宇宙技術部)


― 山方さんが、宇宙の仕事を目指すようになったきっかけは何だったんですか?

山方: 1985年の筑波科学万博がきっかけでしたね。万博のプレイベントとして、当時の宇宙開発事業団(NASDA)が宇宙のイベントやっていて。そこで、宇宙っておもしろそうだなぁ、と思ったのが最初ですね。万博のあとにYACが出来たんですけど、僕自身は当時は小学生だったので、少年団が出来たなんてニュースは全然知らなかったんです。いつの間にかうちの親がみつけて、「登録しておいたから」って。で、いつのまにやら自分の名前の団員証が届いてたってわけです(笑)。僕はさくら分団だったんですけど、そこでNASDAで仕事している指導者の方と会って、宇宙について勉強させてもらいました。流れ星みたり、臼田の天文台行ったり、一番思い出深いのは、松本零士先生と一緒にオクラホマで行われた宇宙飛行士との交流イベントに参加したことですね。実際の宇宙飛行士に会ったり、アメリカの宇宙少年団の子どもたちと交流したり。「宇宙っておもしろい! 将来こういう仕事したい!」とはっきり意識したのはこの時でした。自分は機械系より生物系のほうが好きで、アメリカの大学で生物の勉強のほうへ進んだのですが、最終的な目標は「宇宙での生物研究がしてみたい」ということだったので、日本に帰ってきて生物の勉強をした経験をもとにJAXAに応募したんです。


― JAXAに入って、まずはどんなお仕事を?

山方: 僕がJAXAに入って一番最初にしたのは、配属された有人宇宙技術部の部長さんへのあいさつ電話でした。電話したら、いきなり「君は何がしたいんだ?」ときかれて驚きましたね〜。何もわからなかったので、正直に「この部署では何ができるんですかね?」ときいたんです。そうしたら、宇宙ステーションのロボットアーム作ったり、宇宙飛行士の訓練をサポートしたり、といろいろ教えてくれて。で、「宇宙飛行士の訓練サポートを是非お願いします!」って選ばせてもらったんです。以来、古川、星出、山崎飛行士の訓練に関する仕事をすることになりました。


ヒューストンのジョンソン宇宙センターにて、野口宇宙飛行士が参加したSTS-114 をサポートする山方さん。

― 宇宙飛行士の訓練サポートの仕事というのは、飛行士に何かを教えたりするんですか?

山方: いえいえ、教えるのは別の専門家の先生が行います。その先生に何をどれだけの時間教えてもらうか、どんな教材を用意してもらうか、などの調整をしたり、訓練全体の計画を立てたりするのが仕事です。計画を立てるだけではなくて、訓練が進むたびに、今、飛行士に何が不足していて、何が必要なのかをチェックしながら進めて行きます。例えば、ある訓練は1時間を計画してたんだけど、実際は30分で終わってしまったとします。そうしたら、それは訓練内容が簡単すぎたのか、飛行士が興味なかったのか、それとも先生の教え方がよかったのか、はたまた時間の見積もりが甘かったのか、など様々な解析をしながら進めるんです。星出さんに関しては、先日の帰国報告会で、候補者になってミッション終えて帰ってくるまでの宇宙飛行士の一部始終を見たなぁ。


― 一緒に訓練していた飛行士のみなさんが宇宙へ行くのを見ていると「自分も行ってみたい!」とか思いませんか?

山方: 実は、この仕事する前から宇宙飛行士になりたいと思っていて。ちょうど、古川、星出、山崎の3人が選ばれた時の募集に応募したかったんですけど、まだ学生だったので、実務経験の資格を満たしてなかったんです。2008年の募集では宇宙飛行士への道を踏み出したかったんですけど、今、宇宙服を研究する仕事にとりかかっているので、これを放り出すわけにもいかないし、、、と。


― なんと! 今は宇宙服の研究をしているんですか? それはそれで宇宙飛行士に負けず劣らずの夢のある仕事ですね。

山方: ずっと前から日本で宇宙服つくれないかなぁ、と言い続けてて。3年前くらいから国内にある技術をいろいろ調べて、この技術とこの技術を組み合わせれば、今使われている宇宙服よりずっといいものができるなぁ、とか。「大きなものを小さくする」という日本のお家芸を使えば、いまの宇宙服よりコンパクトで軽いものが作れると思うんですよ。もちろん、作る過程で民間に技術移転ができるようなメリットがないといけない。宇宙服をやれば、たくさんの役に立つ技術が生まれてくると思います。例えば、スポーツウエアなどの部門ではいろいろなところに役立つだろうし、車のボディ、サングラスのレンズ、防護服や消防服、介護や医療の分野でも役に立つだろうし。費用はかかるけど、その中から生まれてくる技術はそれ以上のメリットはあるのではないかと。


― 山方さんの今考えている国産宇宙服って、ズバリどんなものなんですか?

山方さんが考えているメイド・イン・ジャパンの宇宙服についての詳細はこちら(PDFファイルが開きます)をクリック!

山方: 明確なコンセプトが一つあります。それは、ベースになる宇宙服に、いろいろなオプションパーツをつけることで、様々な機能を持たせることができる宇宙服、ということです。ちょうど、コンセプトを考えていた頃、ロボットアニメとか特撮ヒーロー番組で、同じようなコンセプトのキャラクターが活躍していたので、その絵を切り貼りして、アイデアを上司に説明しました。「最初はバカ野郎!」って言われましたけど(笑)。でも、「こういう日本ならではのコンセプトがないとアメリカの宇宙服に勝てません!」、「これができないとやる意味がない!」となんとか説得して。この宇宙服では月ミッションを想定して考えているのですが、目的に応じた機能を持つオプションパーツを付け加えていくシステムだと、パーツを一度月に持っていったら他の人がもっていく必要がないんです。輸送量も減るし、壊れてもオプションパーツだけを変えればいいわけですから。


― 宇宙服を作るのに、日本の技術で一番役に立ちそうなものって何ですか?

山方: 今、僕が調べている限りでは、おそらく繊維の編み方の技術でしょうね。アジア圏というのは竹カゴなどを昔から作ったりして、編む技術に長けてるじゃないですか。生地を編むというと、ふつう縦糸と横糸だけなんですけど、斜めにもう一本いれて見ようとか、違う素材の糸を入れて見ようとか、日本はいろいろな研究をやっているんですよ。だから、アメリカが数種類の生地をツギハギして機能を満たしている部分を、日本の技術を使えば一枚の生地で実現出来るかも知れない。それだけシンプルで軽い構造にすることができるんです。


― 実際の宇宙飛行士さんから出てくる宇宙服の不満というのは、どんなものが多いんですか?

山方: 「グローブがごわごわして使いづらい」というのが一番多いですね。これこそ、生地の編み方次第で動かしやすいグローブが作れるんじゃないか、と試している最中なんです。毎日自分の手とにらめっこして、どの関節がどう動くのか観察してますよ。そもそも5本指必要なのか、とかもね。船外活動の道具を見ると、ほとんど親指、人さし指、中指の3本指で使うので、小指と薬指はくっていているほうが、小指への負荷が減って効率いいんじゃないか、とか。お店でいろいろ部品探して、試作する毎日です。この前も、100円ショップとホームセンターで材料買って、800円くらいでグローブの試作品作りましたよ。職場の机の中はもう工作の材料だらけ。家でも、水含ませた息子のおむつを冷凍庫で凍らせて、その間にチューブをはわせてお湯を通してみて、「冷却剤としてつかえるかなぁ」とか実験したり。冷凍庫には凍ったおむつがたくさん入っていたので、奥さんは驚いてましたよ。


― 衣服のことだと、山方さんが学生時代に勉強していた生物に関する知識もとても活きてきそうですね。

山方: 宇宙服では、服の中の環境のことも考えないといけないですからね。汗やアカ、細菌の話とか、その辺りの生理学的な知識は頭の中にもともと入ってますから、とても役立ってます。面白かったのが、この前、ロボットの研究者の方と冷却系についてのお話をしたんです。そうしたら、ロボットでは、関節が一番摩擦で熱を持つので、関節を冷やすことを第一に考えるそうなんですね。でも、生物をやっていた僕の感覚からすると、一番発熱するのは筋肉なので、筋肉を一番冷やさないといけないと考えるんですよ。関節は冷やす必要ないんです。それこそ過度に負担をかけるスポーツ選手などでなければ。そういう考え方一つとっても、かなり役に立ってますね。


― 大変そうですけど、なんだか楽しそうなお仕事ですね。

山方: 大変は大変ですけど、楽しみながらできているというのが一番ですね。あと、今、日本では自分しか宇宙服のこと考えてないというのも、なんだかうれしいですし。夢は、自分で作った宇宙服を着て、自分が月へ行くこと。これはまだ世界の誰もやったことがないと思うので。実現に向けて、まずは宇宙服を完成させるほうから頑張りたいと思います!



山方健士
JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部 有人宇宙技術開発グループ。元YACさくら分団員。



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