宇宙への宅配便「HTV」に、夢をつめこんで ───


― 国際宇宙ステーションへ食料や衣料、実験装置などを運ぶ無人の宇宙輸送船「HTV」。自動で宇宙ステーションへ近づいていくなど、さまざまな最新技術が詰まっているこの宇宙船の開発を担当したのが、今回お話を伺う三菱電機の白坂成功さんです。白坂さん、まず、HTVの特徴、「ここがスゴイ!」というところから教えてもらえますか?

スゴイところがいろいろありすぎて、どれから説明してよいか迷うところですが(笑)。まずは、秒速8kmというものすごいスピードで地球をまわっている宇宙ステーションに自動で接近し、ランデブする技術ですかね。約10mのところまで近づいたらピタッと止まり、宇宙ステーションのロボットアームで掴んでドッキングさせます。この近づき方に特徴があって。ロシアのプログレスやヨーロッパのATVなどの他の国の宇宙輸送船は、宇宙ステーションの真後から近づいていく方式をとっているんですね。後から近づく方式であれば、同じ軌道上を回ることになるので、約10mの間隔を保ちやすいんですから。



しかし、同じ軌道を回っているので、万が一宇宙輸送船に故障があって頭脳となるコンピュータが止まってしまったら、宇宙ステーションにぶつかってしまう危険性もあります。そこでHTVは安全性を最優先に考えて、国際ステーションの真下から近づいて行く方式をとっています。違う軌道を回っていれば、たとえ止まってしまってもぶつかる可能性はかなり低くなります。ところが、下からですと、違う軌道をまわりながら近づくことになるので、10mの間隔を保ちながら回り続けるのがとても難しくなってしまうんです。


― 人が乗っている宇宙ステーションとドッキングするHTVは、人工衛星などとは比べ物に成らないほどの、高い安全性が求められているんですね。

はい、人命にかかわることですから、安全性についてはとにかく厳しく考えています。他にも、HTVに故障が発生しても、HTV自身が自分で考えて自動で修復できるんです。


― 自分で自分の故障を修理できるのですか!?

修理というより、どこが故障したのかを検知して、故障箇所を使わないで、他の正常に機能している部分でその代用をする、という作業を自動で行うんです。故障の警告を地上で人間が確認してからその対応をしていたのでは、突然のトラブルに間に合わないこともありますから。私はこの安全設計を担当したのですが、NASAで運用訓練をした際、わざと自動で修復できないような重大な故障をおこさせて、人間が手動でコマンドを送って安全化する、という作業を訓練しようとしたんですね。ところが、何をやってもHTVが自動で修復してしまって。「訓練ができないからどうしたら故障させられるか?」と運用者が私のところに相談しに来て(笑)。わざと故障させようとしても、できないくらい安全性が高くなっているんです。


― この安全システムも他の宇宙輸送船にはない、大きな特徴ですね。

そうですね。前例がないことだらけだったので、最初、どう設計していいかまったくわからず、本当に悩みましたね。この時、宇宙ステーションの実験モジュール「きぼう」を開発していたJAXAさんや、他社さんにも足を運んで、いろいろな例を勉強させてもらって。あとは仲間たちと一緒にどうする、とさんざん考えて進めていきました。ここで悩んで考えたことが、その後の自分の大きな財産になりましたね。これまで開発に使えると思ってもみなかったものとのつながりを見つけられたりしたので。大変でしたけど、開発していた約10年間は本当に楽しかったです。


― 安全面だけでなくて、例えば何か特別な物が運べることになった、など輸送面の特徴はありますか?

HTVの下には大きな口が開いていて、ここに宇宙ステーションの外側に取り付ける大きな実験機器などを載せることができます。ステーションの中から大きな装置を外に出せるような出口がないので、外に取り付ける必要があるんです。ステーションの外側に取り付ける大きな装置を運べるのは、スペースシャトル以外ではHTVだけです。また、気圧を調整した与圧室もありますから、これまでスペースシャトル以外では運べなかった新鮮な果物なども運べるようになります。


― 人を乗せて行く以外のことは、スペースシャトルとほぼ同じことができるんですね。これだけ安全性も考えてあれば、そのうち人も乗せられるようになったりしませんか?

そうですね。中で人が生きていくための装置などを開発すれば、かなりの部分は有人宇宙船にも応用できるはずです。HTVには、宇宙ステーションから出たゴミを積んで大気圏へ落下させ、焼き尽くしてしまうゴミ箱の役割もあるのですが、有人宇宙船となると、地球に無事に帰る技術も必要になります。すぐには難しいでしょうが、将来HTVの技術を応用した有人宇宙船を開発する、という構想がJAXAさんにありますし、個人的にもぜひ挑戦したいと思っています。どんな人でも宇宙に行けるような宇宙船を作るのが夢なので。


― 小さい頃から「宇宙船を作る」のが夢だったのですか?

いえいえ、実は子供の頃から「宇宙が大好き!」という子供ではなかったんです。田舎に住んでいたので、昆虫などの生き物が大好きで。コウモリをどうやって捕まえよう、とかしょっちゅう考えている子どもでしたね。ところが、これははっきり覚えているんですけど、中学1年生の時、友達とたまたま宇宙の話をしている時、高度400kmくらいから地球を見下ろした写真を見て。視界いっぱいに地球が広がっている光景を是非見てみたい! と強く思ったんです。そこで宇宙へ行くにはどうしたらいいのかいろいろ考えた結果、自分が大人になった頃には頻繁に宇宙へ行く時代になっているだろうから、宇宙ステーションや基地を作る人になればメンテナンスで宇宙に行くことになるだろう、と。宇宙開発に携われば宇宙に行けるんだ、という単純な発想で(笑)。理科系の教科が好きだったということもあったと思います。今思えば、普通に宇宙飛行士を目指すとか、いろいろな方法がありますけど、その頃はそんなアイデアがなくて。自分の人生を決めた瞬間でしたね。


― まだ宇宙には行けていませんが、宇宙開発に携わるという夢の第一段階は見事実現していますよね。夢を実現できたのはナゼだと思いますか?

夢を実現するために、やらなくてはいけないことがたくさんありましたし、勉強の競争も激しかったですけど”夢”というはっきりした目標があったから頑張れたというのはありますよね。夢を実現できた理由は、自分の夢を見つけることができたからだと思います。大人は「夢をみつけよう!」と子どもたちに簡単に言いますけど、実は具体的な夢を持つことって意外と難しいんですよ。なので、宇宙を目指す子どもたちには、「とにかくいろんなことに挑戦してみよう!」と言いたいですね。宇宙にかかわりたいからといって、漠然と宇宙のことばかり勉強するのも良くないと思うんです。宇宙と一言に言っても、いろいろなかかわり方がある。宇宙で生物の研究だってできるし、食べ物を研究することだってできます。宇宙って単なる場所なんですから。今は技術系の研究が多いですけど、宇宙でたくさんの人が暮らすことになれば、法律や教育、精神的な研究も必要になってきます。自分が一番興味を持った分野で宇宙を目指せばいいと思うので、ドンドンいろいろなことに挑戦していって欲しいですね。

僕の両親も、好きなことは何でもやらせてくれました。今は親として子供を育てる側ですが、漫画やゲームも何でもかんでも禁止しないで、やりすぎは良くないけど、全部やってみていいと思って好きなことをやらせています。僕自身ゲームもやりましたし、漫画も読みました。そこから何かが広がる子もいると思いますし。最初から可能性を削るのはあまり良くないと思います。「これをやってみたい!」と思うものを子供が自発的に見つけ出すことが一番ですから。


― それでは最後に、「宇宙へ行く」という夢の最終目標に向かって、今後どんなことを考えていますか?

HTVを有人宇宙船に発展させて、それに自分が乗って宇宙に行けたら最高ですね。自分が開発に携わった宇宙船で宇宙に行ったという宇宙飛行士は世界でもまだ例がないと思います。まだまだ、かなり本気で宇宙に行きたいという夢は持ち続けていますから(笑)。有人宇宙船は、子どもたちに大きな夢を与える計画ですし、三菱電機の技術ならこうした宇宙船を必ず作ることができると思っています。



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