日本宇宙少年団苫小牧分団における活動について

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① 活動のねらい
子ども達に衛星に関する基礎知識や衛星データの見方などを学習させ、身近な生活環境を考えることで地球規模の環境変化などに視点を広げていくことを狙いとする。

② 対象・人数等
約30名(団員(子ども)・兄弟・保護者・指導員で構成)

③ 活動場所
苫小牧市科学センター

④ 活動内容
「衛星はみじかに」をテーマに2010年8月よりYAC苫小牧分団の例 会で継続的に実施した。(以下「衛星はみじかに」をテーマとした活動を参照)開発した導入教材や苫小牧市の衛星画像データを活用し、子ども達自身で画像ソフトを使い、処理等の操作を行った。その処理された衛星画像から、経年化、季節化による地域の様変わりから、その原因等も子ども達で検討し合った。 最後には、現実的に調査できそうな項目を精査し、次年度の活動ではフィールドワークとして現地調査も実施する予定である。


<活動プログラムの流れ>
◆ 8月22日「衛星はみじかに(1)」
1. 例会の趣旨と今後の流れについて説明。★
2. 保護者も含め環境など身の回りで感じたことをポストイットに記入。
3. 分野ごとに黒板に貼りつける。
4. 高校生が発表を担当。記入した団員がそれぞれ説明する。
5. 今回出たテーマをまとめ、次回例会開催までに団員に郵送する。

◆ 9月11日「衛星はみじかに(2)」 
1. 第1会で出されたテーマのおさらい。
2. さらに新しいテーマを考える。★
3. 意見交換

◆ 10月9日「衛星はみじかに(3)」★
1. 衛星写真と航空写真の違い
2. 衛星の種類と特徴
3. 各バンドの反射特性とその見かた
4. 関連ホームページの閲覧

◆ 10月24日「衛星はみじかに(4)」 
1. 団員からのテーマを仕分けし13に絞る。★
2. 光の性質を知る。★
3. 前項を具体的に道具を使い、色の3原色、光の3原色の違いを学習し、電磁波でもあ
る赤外線を利用した衛星写真の仕組みを知る。★
4. 植生のお話し。


《活動成果と課題》
衛星を知る上での「リモートセンシング」を子ども達へ学習させる範囲の幅が広く、最終的に何を学習したのかわからないといった指導者からの声もあり、指導者自身が試行錯誤を繰り返し、子ども達へどう分かり易く指導できるかの工夫が課題として残った。購入した苫小牧市の衛星画像データを使ったプログラムでは、経年変化、季節変化を比較して子ども達による多くの「発見」が成果として得られた。この「発見」をきっかけに子ども達で議論し、活動テーマを決定するまでの流れができたため、研究活動の継続性が保たれた。子ども達による自発的「発見」が得られなければ、本研究プログラムの意義が問われるため、いかに衛星画像データから「発見型」へ導くことができるかも今後の課題である。

◆ 11月13日「衛星はみじかに(5)」
1. 団員同士の意見交換によりテーマを2個に絞る。

◆ 1月6日「衛星はみじかに(6)」
1. これまでの例会での学習結果をもとに、実際に衛星データを使って今と昔の自然の変化を
さぐった。(北翔大学の中山先生による流氷研究の実体験からの結果紹介)
2.日本や外国の南極観測船に同乗しての貴重な研究資料を解説した。


《活動成果と課題》
10月24日の「衛星はみじかに(4)」の内容が理解しやすい様に身近なもので事前実験学習をすることとした。

(演示実験)
1. 可視光の光について、紫外線と赤外線を例にして身近なセンサー例を知る。ブラックライトの紫外光やリモコン送信機の赤外信号を携帯電話のカメラで観察する。
2. 有色透明プラ板と2色に塗り分けた文字シートを使って(緑・赤)、色の見える仕組みを学習。選択透過による色の認識(一種の色分解)と、選択反射による色の認識(同)や、3原色フィルターによるカラー写真撮影と復元の原理を知る。
3. 赤・緑のLEDの発光色を白紙に映し、黄色の混色が観察される実験を通して、光の3原色について学習。

(まとめ)
赤外域から紫外域までの光の性質とセンサーについて、電磁波というとらえ方で身近な例で実験学習し、衛星・地球・リモートセンシングとの相互関連学習の布石を得る。

注記
2.の文字盤は緑フィルターを掛けると赤バックが黒く落ちてアルファベット系列の文字列が消える。赤フィルターを掛けると逆に数字系列の文字列が黒く消える。(フォト紙印刷)この実験では主に選択的透過光の働きについて学習。一部反射もある事に触れる。

上記演示実験では、リーダー持ち寄りの機器なのでスペックがばらついて少しやりにくい面もあったが、実用範囲であった。今までの例会学習結果からの実技体験になる形をとり、二人一組程度のパソコンを使用してデータやソフトの扱い方を実習。地表や海面の経年変化を読み取る練習と、同時にその結果の解釈も理解できることが課題。

◆ 2月12日「衛星はみじかに(7)」
過去6回における本活動(時間にして8時間)は、主に衛星センサーの仕組みや光の3原色などの基礎分野を学習してきたが、苫小牧近辺の衛星データを活用し、経年変化を調べることとした。

活動イメージ

使用画像
【LandSat】            【ALOS】
1978年8月25日       2010年12月27日
1989年6月10日       2010年 6月26日
1993年7月 8日       2008年 8月 5日
2004年1月18日       2007年 5月 3日

1. 苫小牧市街地を含めた建物や地形、自然などの経年変化を年代の違う衛星画像を見比べ具体的に変化をした個所を発見する。

発見場所
(1) 石油コンビナート
(2) 新千歳空港国際ターミナルビルとその周辺
(3) ウトナイ湖
(4) 苫小牧東港と勇払マリーナ


2. 経年変化の内容と理由の考察

(1) 石油コンビナート
平成15年9月、出光興産北海道製油所が所有する原油タンクが十勝沖地震(マグニ
チュード8)の影響を受け、火災につながったことを知る。そこで、翌年にあたる2004年10月18日に撮影されたLandSatの画像を見たが、残念ながら解像度が低く、タンクヤードの確認ができなかった。しかし、2007年5月3日にALOSで撮影されたPRISM画像(画像1-1)と2010年6月26日に撮影されたパンシャープン画像(画像1-2)とを比較した。画像1-1では苫小牧西港南端部にあたる個所にはタンクが見当たらないが、画像1-2では4基のタンクが増設されているのがわかる。現地調査の結果、所有者は苫小牧埠頭㈱が2008年5月に建てたオイルタンクであることがわかった。(写真1-3)

画像1-1
2007年5月3日 ALOS プリズム (画像1-1)

画像1-2
2010年6月26日 ALOS パンシャープン (画像1-2)

写真1-3
写真1-3

 また、同じく2010年6月26日にALOSパンシャープン画像(画像1-4)で石油コンビナートを調査すると、タンク上部の明暗が違うことに気付いた。そこで2010年12月27日に撮影された画像(画像1-5)とを拡大して比較することにした。

画像1-4
2010年6月26日にALOSパンシャープン(画像1-4)

画像1-5
2010年12月27日 ALOSパンシャープン(画像1-5)

画像1-5は冬期に撮影したものですが、タンク内部の影がくっきりしていることがわかります。タンクの屋根はフロート式なので内部の製品が少ない場合に屋根が下がり影がはっきりしてくるようです。一方、画像1-4は影が少ないのでタンク内部には製品が充分に入っていると考えられることから、北海道の冬は石油の需要が多いことがわかります。


(2)新千歳空港国際線ターミナルビルとその周辺
2010年3月にオープンしたターミナルビルと連絡通路の変化が確認できた。

ターミナルビルの変化
1989.06.10            2008.08.5                   2010.06.26

1989年6月10日LandSatの画像では、国際線ターミナルビルの建物が見られないが2008年8月5日ALOSの画像では白く写ったターミナルビルが確認できる。2010年6月26日の画像では、国内線ターミナルビルと国際線ターミナルビルが黒っぽく写った通路で接続されているのが確認できる。また、画像に現わしていない部分でも空港の整備と共に周辺の工業団地の造成や新しい道路が進められていることが確認できた。


(3)ウトナイ湖
ウトナイ湖は日本で初めてバードサンクチュアリに指定された野鳥の聖域です。シベリアからの渡り鳥の中継地点でもありその種類は約160種類。1991年に国際的に重要な湿地及びそこに生息する動植物の保全を進めることを目的とするラムサール条約に国内で4番目に登録された所です。

苫小牧市は8月の平均気温が20℃前後、最高でも25℃位の涼しい気候の地域です。そこで、50年前頃のウトナイ湖の様子を聞くことができました。当時は湖の中央部付近に行っても浅く小学生でも首が沈むことがないことで、1週間ほどの短い夏を泳いで楽しむことができたそうです。

ウトナイ湖
(ウトナイ湖全景)ウトナイ湖サンクチュアリHPより

また、湖内にはたくさんの水藻が生息し気持ちの悪い思いもしたそうです。小魚やタニシなど、豊富な餌を求め渡り鳥がやってくるのもうなずけます。 一方で、1960年代に国の第3次総合開発計画で周辺は苫小牧大規模工業地帯としてスタートしました。勇払原野の北西側に位置するウトナイ湖周囲の湿地帯は工業用地となり、河川改修などが進められましたが70年代のオイルショックなどの影響により工業地帯の開発は頓挫し多くの未利用地帯が発生しました。

ウトナイ湖
1978年8月25日LandSat                2008年8月5日ALOS

上図はLandSat及びALOSの画像を比較するのに利用しましたが、ウトナイ湖とその周辺の河川などに変化が見られます。特に湖面に注目するとLandSat画像では湖面内に緑色のものが確認できますがALOS画像ではまったく見られません。そこで原因を調べると次の様なことが判明しました。1990年代の台風の影響により、ウトナイ湖に流れ込んでいる川の一つである勇払川が氾濫し、湖の近くに位置する家屋が床上浸水となる被害を受けました。(画像3-1丸枠付近)そこで北海道土木現業所が勇払川河川改修工事を実施したことがわかりました。(青丸内)

画像3-1
1978年8月25日 LandSat Band4 (画像3-1)

マコモの群生が消失した原因は、勇払川河川改修で矢印部分が大きく変わったこと。特にウトナイ湖に流れ込む側では、豊富な水が確保できるようになったが、川が土砂を運んでくることでマコモの生育に大きな影響を及ぼしてることがわかりました。また、ウトナイ湖から太平洋に流れ出る勇払川が直線に変わったことは、流れ込む水と出ていく水とのバランスを崩し、ウトナイ湖の水位を下げ植物に影響を与えたものと思われます。(画像3-2)

マコモ※マコモ
東アジアや東南アジアに分布し、日本では全国に見られる。水辺に群生し、沼や河川、湖などに育成。また食用にも利用される。成長すると大型になり、人の背くらいになる。花期は夏から秋で、雌花は黄緑色、雄花は紫色。葉脈は平行。
―ウィキペディア―

画像3-2
2010年6月26日 ALOSプリズム (画像3-2)

(4)苫小牧東港と勇払マリーナ
苫小牧港は1950年に特定重要港湾として着工された西港地区(人造港)と1976年に着工された東港地区の2港を持ち更にその中間には2002年にオープンした勇払マリーナがある。

1978年8月25日
上の画像は1978年8月25日にLandSatで撮影されたものですが、左側が完成している西港区です。右隅にはわずかだが着工したばかりの東港区の防波堤見える。

1993年7月8日
上の画像は1993年7月8日にLandSatで撮影されたものですが、東港区の防波堤と一部埋立てた部分が見える。陸上に見える丸いものは1990年に完成した石油備蓄基地です。西側市街地と備蓄基地の間には湿地帯が広がっている。

2004年10月18日
上の画像は2004年10月18日にLandSatで撮影されたものですが、海岸線中央部には2002年に開港した勇払マリーナの防波堤が見える。

2010年6月26日
上の画像は2010年6月26日にALOSで撮影されたものですが、東港区の埋立地には建物が建ち、国際コンテナーターミナル基地として運用されている。


3. 今後の進め方について
開始当初は手元に衛星データがなかったので、光の3原色や衛星の紹介などの基礎的な分野に集中して学習してきたが、画像が入手できたので今後は更に観測波長帯を調べることにより子どもたち同士の意見交換を重ね、研究課題を見つけていく作業となる。

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